強訳 -強引な翻訳-

英字新聞の見出しを一つ翻訳する日記

11月29日

ここへ引っ越してきてから半年以上になる。
隣駅の近くに図書館があると知ったのは最近のことで、それなら本でも探しにいってみようと行くことにした。
田舎の本屋にはあまり本の種類が少なく、珍しい本を仕入れても売れないとすぐに返してしまうみたいで、先日の本もどうやら返品されてしまっていた。
図書館なら多少珍しくて古い本も置いてあるだろう。

天気予報は一日雨だったので、傘と長靴を揃えて外に出た。
すると外は思ったよりも雨は降っておらず、イギリス帰りの人なのか傘を差してない人もいるくらいだった。
これくらいなら歩いて行ってみるか。
一駅分だと小1時間くらいだ。
電車賃をケチりたいわけじゃない。気分だ。
雨だと思っていたら意外に雨が降っておらず、そして気温も暖かい。
だからそういう気分になった。

傘を閉じて一度駅まで行き線路の近くの道を歩いた。
普段歩かない道で新鮮な気分だ。
新しい景色を見ながら歩いていると遠いことも気にならず、すぐに隣の駅が見えてきた。
図書館もある。
だけど、そのままには図書館に行かず、まずは隣にあるスーパーに入った。
歩いたので喉が渇いたような、小腹が減ったような何か口に入れたくなったのだ。
初めてのお店は見ていて楽しい。
何か特別なものがあるわけではないけれど、野菜や魚などつい見てしまう。
そして必ず見るのがお酒売り場だった。
今日もうろうろして探してみると、お酒売り場は少し別のところに設えてあった。
棚を順番に見ているといろんな種類のお酒の瓶とは別に、銘柄の書かれたカードが三種類置いてあった。
”山崎、白州、響はおひとり様合計三点までです。このカードをサービスカウンターまでお持ちください”
お、久しぶりに売っているところを見た。
最近では三種ともすごく人気らしく売り切ればかりでなかなか見かけず、売っていても高値で取引されているみたいだった。
このお店では三種類とも裏に大事にしまってあるらしく、値段も書いていなかったので在庫の有無も併せて店員さんに尋ねた。
「山崎は定価で税別4,500円で在庫ありますよ」
知らない間に値上げされているではないか。以前買ったときはたしか4,000円だった。
しかし、こんなとこで出会うとは。しかも定価販売で。たった今入荷したてらしい。
どうしようか。まだ図書館にも行っていないのに。
図書館には行ってないけど結局買ってしまった。また現代社会の巧みなコマーシャリズムに負けたのだ。
でも何とか山崎1本だけにしておいた。まだ図書館にも行っていないし。

鞄にウイスキーを忍ばせて図書館に入った。ここが本来の目的だ。
目ぼしい本をいろいろ探してみたけど、貸し出し中なのか元々置いていないのか今日の図書館には気になる本は置いていなかった。
こういう時はそういうものだ。
せっかく来たのでとりあえずチャールズ・ブコウスキーの本を取った。
家に戻れば置いてあるのだが、少しブコウスキーの言葉を欲したのだ。

「あぁ、わからんでもないが、オレならもっと気に入ったヤツを選ぶぜ」
そうかもしれない。でも今まで安ウイスキーで過ごしてきたし、今回響は買わなかった。季節が夏なら白州を選んでいただろうし、今は山崎だ。
「どうでもいいからくだらない本なんて読んでないで、さっさと帰ってよろしくやれよ」

本を片付けて早々に図書館を後にした。
外へ出ると先ほどよりも雨が強く降っていた。
しかし、傘を差すとためらいもなく歩き出した。
電車は使わない。そういう気分だからだ。何のための傘と長靴だ。

あぁ、それは嘘だ。
この帰りの歩きは金をケチった方の歩きだ。気分でも何でもない。
気分でいえば、すぐに帰る方の気分だ。
今更200円もしない金額をケチったところでどうなる。
今にも死にそうな奴が深爪を気にするようなものだ。
なんなら爪なんて切らなくてもいいじゃないか。

The New York Times
Antiwar activists who flee Russia find detention, not freedom, in the U.S.
"I left Russia for a place just like Russia"
(ロシアを逃れた反戦活動家たちは米国で拘束され、自由はない
「私たちはロシアを出てロシアのような場所に着いた」)

ぼつぼつ歩いているといつもの駅が見えてきた。
駅前の通り沿いには一軒の酒屋があり、窓ガラスにいろいろな種類のお酒の銘柄と値段が書かれた紙が張り出されていた。
足を止めて見てみると、そこには山崎の名前も書かれていて定価の3倍の値が付けられていた。

さらに雨が強くなってきた。
今日はもう雨は止みそうにない。
雨の中、また再び歩き出した。
家まであともう少しだった。