強訳 -強引な翻訳-

英字新聞の見出しを一つ翻訳する日記

12月5日

最初に目が行ったのは、足元の真っ赤なスニーカーだった。

改札口から出てすぐのところで後ろ姿が目に入った。
とても鮮やかで質感もよく、またすごく速く走れそうなスニーカーだった。
そして次に紺色の服だった。
濃い目の紺色のジャンパーで、パッと見たときは黒色だと思ったら、よく見たら濃い紺色だったのだ。
シルエットも流行りのダボっとしたものではなく、全体的に体のラインに沿ったタイトなものだった。
その組み合わせはセンスのない自分にも素直にかっこいいなと思えるものだった。
今思えば先日から行われているサッカーの影響もあるのかもしれない。
眠気眼に見たフランス代表のユニフォームのような雰囲気があったのだ。

その姿を後ろからそれとなく目で追っていて、そして最後に気が付いたのが杖だった。
よく見ると手に細い杖を持っていて、それで地面を軽く左右に振りながら歩いていた。
どうやら駅構内だったので、地面に埋め込まれた点字ブロックを杖で確認しながら歩いているようだった。
たまたま自分の行く方向と同じだったので、彼に先導してもらう形で続いて歩いた。
どのくらい見えているのかはわからないけれど、そのスピードは一般の人が歩く速さと何ら変わりがなかった。
なんだったらくたびれたサラリーマンの方が遅い人がいるくらいだった。

そうして歩いていると点字ブロックは無情にも階段へと彼を誘った。
しかも点字ブロックは階段のど真ん中へと続いていた。
駅の階段なんて大抵広くとられていて、真ん中からなんて両手を伸ばしても到底手すりには届かなかった。
というよりも、エレベーターも設置されているのだからそちらに誘導した方がいいと思うのだけど。
そしていよいよ階段に差し掛かると、彼は杖が一層深い段で手応えがあるのがわかると、瞬時に階段と察知したのか、ひょいっと1段階段を下り、続けざまに2段3段と下っていった。
それも1段1段両足で降りるのではなく右足で1段、次を左足で1段、片足づつ軽快に降りていった。
階段のど真ん中を降りていくその後ろ姿は、堂々としていて音楽番組のスターのようだった。
この時代に一体どれだけの人が階段の真ん中を堂々と降りていけるだろうか。
そのままリズムよく階段を降りると駅前の鮮やかなイルミネーションを振り返ることもなく、細い道を何事もなく歩いていってしまった。

階段の途中からその姿を見送るとゆっくり1段1段と階段を下った。
今掴まっている手すりや柵、あるいは綺麗に飾られた電飾は何を守り何を照らしているのだろうか。

階段を下りた先に白ポストがあった。
そこには"青少年に有害な図書やビデオを入れてください”と書かれていた。
それを見て、そういえば高校を卒業して家を出る時に中学校の運動部の部室にたくさんのエロ本を置いてきたことをふと思い出した。

The Japan Times
Armed with anime avatars, Japan bids to conqure the metaverse.
(アニメのアバターを武器に、日本はメタバースの征服を狙う)

急に気になってきたのだが、あの時の中学生はあのエロ本を気に入ってくれたのだろうか。

あと彼のあの赤い靴は誰が選んだのだろう。