強訳 -強引な翻訳-

英字新聞の見出しを一つ翻訳する日記

12月6日

"The last step to the toilet is the farthest step "

誰が言ったのかは知らない。
多分こんな雰囲気の言葉だったように思うが、この言葉には人生の教訓が詰まっている。
たぶんアームストロング船長あたりが言ったのだろう。

帰宅する途中から危ないなとは思っていたのだ。
今までの人生の中で自分の思い通りに事が運んだことなんてないはずなのに、いつもヘマをするのだ。
さまざまな能力が足りていない中で、一番必要としているのは「できないということをしっかりと認識する能力」だと思う。
しかも、こういう時に限って履いているのは黄土色のズボンで、水分を吸うとたちまち色が変わってしまうタイプの色だ。
そういう方のタイミングなのだ。
人生は何者かにデザインされていて、そいつの趣味がこういうタイミングなのだ。

全力はアレなので急ぎ足で家に向かった。

昔はよかったなんて言うが、ほんとにそう思う。
昔なら躊躇なくその辺りでする。
子どもだけじゃなく大人もしていたことだ。
見つかっても照れ笑いをしていただけで怒られたことなんてなかった。
人によったら立小便をしながら世間話しているおじさんとかもいたと思う。

いよいよ危なくなってきた。
激しく股間を揉み込むが尿意はおさまりそうもなかった。
もうそこなのだが階段があまりにも階段で憎たらしい。
今はあまり大きな高低差を乗り越える自信はない。

そうだ、公園だ。
家の近くの公園に行く。
公園はバリアフリーのお手本のような場所で誰でも歓迎してくれていた。

なんとか公園につくと公園には誰もいなかった。
トイレは今入ってきた公園の東の入り口とは逆の西の入り口の近くにあった。
剣道部のような摺り足でトイレまで急いだ。
たしかに学生時代は剣道部ではないからそこまでのスピードは出ない。
こんなことなら剣道部に入っておくべきだったのかもしれない。
そしたら今頃こんなことにはなってない。

見えてからのトイレは遠い。
船長の言う通りだった。
スニーカーの底がだいぶ削れたように感じる。

それでもなんとか無事トイレに駆け込んだ。
そして焦る手つきでベルトを外し、陰茎をプリンと出した。
プリンとなりながらおしっこが出た。
子どものころ天気のいい日曜日に、ホースで洗車をしている父親に「ここに水入れて」とバケツを出し、ホースで水を入れてもらうのに冷たいっと言ってキャッキャする。
そんな感じだ。

間に合った安堵感、出し切った満足感、そして地球は今日も回っている。
しっかりとした足取りで東の入り口の方へ向かって歩いた。

入り口近くにはベンチがある。
三日ほど前からここに黒い上着が置いてあった。
次の日も置いてあり昨日もまだ置いてあったのだけれど、昨日通り掛かったとき雨が降りそうだったので、カバンの中にゴミを入れる用の袋があったのでそれをとり出して、そこに入れておいた。
それが無くなっていた。
やっと持ち主が取りに来たのか。

The Washington Post
Social security office critical to disability benefits hit breaking point
(障害者給付金に不可欠な社会保障事務所が限界に達した)

アパートに着きトントントンっと階段を上った。
あれ、ひょっとしてあの上着、ゴミだと思われて捨てられてしまったんじゃないだろうな。