強訳 -強引な翻訳-

英字新聞の見出しを一つ翻訳する日記

12月13日

どうやら明日からもう一段階寒くなるらしい。
今日は朝一に雨が少し降った後は、冬の表情ではあったけれど、雨は一日降らなかった。
一応念のため、グローブだけ替えた。
いつも履いているのは防水になっていないので、前にホームセンターで買った作業用のゴム手袋をはめていった。
これは完全防水の代物で防寒対策も施されていた。
おまけに色がオレンジで黒いジャケットととても合っていた。
そしてこれがバイクに乗るのにとても適していたみたいで乗っていても全然寒さを感じなかった。
ゴムなので風を通さないのがいいのだろうか。
手袋で防寒されていたおかげか、今日は体全体が寒さをあまり感じなかった。
なんなら夕方は風も全然なく気持ちがいいくらいだった。

帰宅して駐輪所にバイクを停めてオレンジの手袋を改めてまじまじと眺めていた。
すると横のスペースに自転車が入ってきた。
普段ここで誰かと顔を合わすことはあまりなく、だれが住んでいるのかも知らないけれど、ここに自転車を停めるということはここの住人だということはわかった。
こんばんは、と挨拶をするとこちらをちらっと見て何か言ったのだろうけれど、こちらがヘルメットをしていたせいか、よく聞き取れないくらいの挨拶を返して彼は行ってしまった。
後姿を見送り、以前にもそんな人とここで挨拶したことをぼんやりと思い出した。
そうだ、これが前から変わらない彼のスタイルなのだ。
みんなそれぞれのスタイルがある。アメリカにはアメリカの、メキシコにはメキシコの、そしてロシアにはロシアのスタイルがあるのだ。
そして彼の挨拶はロシア式の敬礼に比べたらだいぶ愛想よく感じられた。

手袋を仕舞いバイクのマフラーを触るとまだ熱くこのままシートを掛けるわけにはいかず少し時間を置く必要があった。

この先、本格的に寒くなったらバイクをどうしようか。
今まで越冬のための作業などしたことなかったが、今年は春にバッテリーを換えたばかりで、ひょっとしたらバッテリーくらいは外しておいたほうがいいのかもしれない。

そんなことをいろいろ考えていたら、先ほどの彼がまた自転車に戻ってきた。
そして「ゴミ袋って入ってた?」と唐突に声を掛けてきた。
ゴミ袋ですか、と聞き返すと「いつもならもう入ってるよね?」と口答えしてきた。
いつもと言われても、ここに越してきてまだ1年も経ってないのでいつもがよくわからなかった。
そうこちらも口答えすると「あ、そうなの、いつも年2回市から配布されるゴミ袋を不動産屋が入れてくれるんだけどね」と言いながら自転車のハンドルに手を掛けた。
「それが気になってたから」と言って自転車をグイっと前に押した。
そう言われたものだからこちらも、ここのゴミ捨て場は袋は指定のじゃなく普通の透明のものを使えと入るとき不動産屋に言われたんですけどね、と言うと、「そうなんだけど、別のとこに住んでる女が欲しがってるんだよね、せっかくだから貰わないと。指定のゴミ袋あれ結構高いんだよ」と言いながら彼は自転車から手を放しタバコに火をつけた。
「ここも元々は市の回収業者が来てたんだよ。でも出し方が酷くて、いっつもオーナーみたいなじいさんが掃除していて顔を合わすたびに怒ってたよ」と話した。
「それでいろいろ揉めて民間の業者が来るようになったの。それ以来分別もしなくていいんだよね。オレも前はきっちり分けてたけど今は燃えるゴミの袋に酒の瓶も突っ込んでるよ、どっちにしてもあっちで分けるんだから」と笑った。
「ほら、オレ元々ゴミ屋だからさ、そういうのやってたから」と言いながら2本目のタバコに火をつけた。
こんなアパートでもそれなりに闘争の歴史があるのだ。
彼はここに住んでだいぶ長いらしくいろいろなことを話してくれた。
「ここって音うるさいだろ、声はそんなに響かないんだけど物置いた時とかの衝撃が伝わりやすいんだよ。女のドカドカ歩く音とかさ」
彼のタバコの吸うスピードは速かった。
空になった箱を自転車のカゴに投げ次の封を切った。セロファンをポイと捨てると3本目に火をつけた。
「うるさい奴には直接文句言ったほうがいいよ。自分の出してる音なんて自分ではわかんないんだよ。不動産屋に言っても全然動いてくんないから。前に言ったことあるけど、半年経っても変わんないから聞いてみたら前の担当者が辞めてしまったのでわかりませんだって」

The Washington Post
They call him the Eagle : The U.S. lost a key ally in Mexico as fentanyl took off
(みんな彼のことをイーグルと呼んだ:フェンタニルが急増しアメリカはメキシコの重要な味方を失った)

「だから我慢しないで自分で言ったほうがいいよ」と彼はここでの暮らし方を教えてくれた。
「ゴミ袋のことがちょっと気になって聞きたかったんだ、ありがと」そう言うと彼は自転車に乗ってどこかへ出かけて行った。
ひょっとしたらゴミ袋の女のとこに行ったのかもしれない。

バイクのマフラーを触ってみるともうすっかり熱は引いていたのでバイクにカバーを掛けた。
足元にはタバコの吸い殻とセロファンが散らかっていた。
セロファンが風にゆらゆら揺れていて飛んでいきそうだったのでそれだけ拾って部屋に戻った。

彼は悪い奴ではなかった。
みんな社会にちょっとだけやられただけなのだ。